−俊角が亢徳の気を辿って行き着いたのは…、村でも悪どい商売をすることで名高い馬津(マーシン)という男の屋敷だった。 和やかな村の雰囲気にそぐわない、けばけばしい色合いで飾られた豪奢な門の前で俊角は女の正体を思い出した。 女は馬津の愛娘、玲郢(レイエイ)。父の財力を振りかざし、好き勝手に振る舞っているという噂を耳にしたことがあった。 「おい、兄貴はどこだ?」 「ああ?誰に向かって口聞い…ゥグッ!」 俊角は門番をしている男に声をかけたが、素直に答えないと知ると即座に跳び蹴りを喰らわせた。 「てめェに聞いてンだよ!…兄貴はどこだ?」 「…あ、あっこ…」 男は俊角の顔を見て、一瞬ヒイッと飛びのいたが、顎の骨が砕けて思うように話せないらしく、屋敷のてっぺんを指差した。 俊角はそれを見て猛然と駆け出した。 兄貴、必ず助けるから…! 目的の部屋までの間、俊角は数多の敵とぶつかった。刃物を振り回す輩達をようやく交わし、目的の部屋の扉の前に辿り着いた時には、息も乱れ、衣服も裂かれていた。 …間違いない、兄貴はここにいる。 他でもない兄の気を感じ取り、俊角はためらうことなく勢いよく扉を開けた。 バンッッ!! 「兄貴ッ!!」 まず見えたのは、贅沢の限りを尽くして肥えた馬津の姿と、娘の玲郢の高慢ちきな顔だった。 「来たね、片割れ」 そして、次に目に入ったのは…後ろ手に縛られた亢徳の姿だった。 「兄貴!!」 …っのやろ…兄貴をあんな目に…ッッ! ゾワ。 余りの怒りに全身の毛が逆立ち、突然体が熱くなった。 「…許せ…ねェ…」 ミシ…ミシ…。 建物が軋む音が部屋を包む。気付くと俊角は青い光りに包まれていた。 「…俊角ッ…」 亢徳はハッとして弟の左肩に目をやった。 服が破れて僅かに肌色が覗くそこには、『角』という字がくっきりと現れていた。 俊角の周りにはいつの間にかあの手鞠が二つ、宙に浮かんでいる。 「兄貴を…離せぇえッッ!」 ドンッッ!! 俊角が叫んだ瞬間、二つの鞠が凄まじい速さで馬津と玲郢の頭を直撃した。 「兄貴ッッ!」 ドサリ、と父娘が倒れる音がして、俊角は亢徳に駆け寄った。 「大丈夫か?!」 「ああ…」 「ごめん、オレがあの時出ていかなければ…」 俊角は亢徳を縛っていた紐を解きながら詫びた。 「いや、僕もいけなかったんだ。大事な弟の気持ちもわからないで、国を護る七星士なんて、務まるわけないんだ」 「−兄貴ッッ!」 「ごめんよ、俊角」 「…兄貴…ッッ…」 兄の言葉を聞いた俊角は顔を綻ばせ、久しぶりに兄の胸で泣いた。 「−ところで俊角、おめでとう」 俊角の様子が落ち着くと、亢徳はそう言って俊角の左肩を指し示した。 「これ…!」 「そう。青龍七星士の証だよ。俊角は『角宿』だね」 「『角宿』…」 亢徳は、ぼーっと言葉を繰り返す俊角の頭を抱き寄せて言った。 「オレと一緒に、この国を護ろう」 「うん…」 俊角は涙の滲んだ瞼を閉じて頷くと、兄の体をしかと抱きしめた。 兄の温かいぬくもりを感じながら、俊角は心に誓った。 兄貴は、絶対にオレが護る。 −end− |
さくらさんのサイトでいきなり2900HITしてリクエストさせていただきましたv アミスー小説も専門に取り扱ってらっしゃるので、 ココは迷うことなく『双子の濃厚な兄弟愛を!』と、謎のリクエストをしてしまいました。 そしたら角宿が七星士として覚醒するという素敵にカッコいいシーンを書いて下さってvv それを通しての兄弟愛と七星士としての決意という二重に話が絡まってて凄くよかったです。 さくらさん、どうもありがとうございましたv |