兄貴はいつだって優しすぎるよ。
誰にでも笑顔で接して、苦もなく頼まれ事をこなして…。
そんな兄貴を尊敬してるよ。
だけど…嫌なんだ。兄貴が他の人にとられちゃいそうで…。
オレの兄貴なのに。



--想い--
作:NO.213  さくらさん



「なあ、兄貴、そんなん自分でやらせりゃいいじゃねェかよ」
俊角は床に寝そべって、衣服を見繕っている兄に言った。
「ん〜、そうだね、リュウさんちのとこの奥さんは裁縫得意だもんね。でも、その奥さんが最近目が悪くなったって、心配してたんだ」
出来ることはやってあげたいんだ、と亢徳は再び針に目を落とす。

「そんなこと言って、昨日もオレと遊んでくんなかったじゃんか」
ギロ、と上目使いに兄を睨む。

「そうだったね、ごめん。明日は時間取るよ」
申し訳なさそうに詫びる亢徳。

…わかってる。兄貴が悪いんじゃない。
でも、不安でしょうがないんだ。
俊角はバッと起き上がると、兄の前に顔を突き出した。

「『明日は』そればっか!オレのために時間作ってくれる気があるなら、今それやめて出掛けようぜ!」
「…俊角…それは」
「−っだよ!やっぱ出来ないんじゃん!」

亢徳が言いかけた言葉を遮って、俊角は顔を背けた。

「…『七星士は民のために』…だろ?兄貴はそうかもしれないけど、どうせオレは違うんだし、少しは構ってくれてもいーじゃねェかよ!」

そう、兄貴は国を護る青龍七星士。だけどオレにはまだその兆しが見えない。

「待て俊角、それは違う」
凛とした亢徳の言葉も、俊角の心には響かない。

「…別にいいよ、オレ。青龍七星士なんかなれなくても…兄貴がいてくれれば」
「俊角…何を言ってるんだ?オレはずっと傍にいる」
驚いて、俯く弟の肩に手を置く亢徳。俊角は潤んだ目で亢徳を見上げた。
「悔しいんだ…兄貴はオレの兄貴なのに、みんなにとられてるみたいで…」
「俊角…」
「なあ、兄貴は?オレは兄貴が一番大事だ。兄貴も、そう思ってくれてるよな?」

父さんと母さんが死んでから、兄貴しか見てこなかった。兄貴がいたから生きてこれた。
今では、その兄に必要とされたい、と願っている。

「ああ、もちろん」

亢徳の爽やかな笑顔に俊角の心がほわっと暖かくなった。

「でも今は、周りの人との関わりも大事だ。わかってくれ、俊角」

「…ッ…!−もういいっ!」
思いも寄らない言葉を耳にした俊角は、バッと立ち上がった。
「兄貴なんか…っ!」

そして酷く傷ついた目で兄を睨み付けると、乱暴に戸を開け、家を飛び出した。

「俊角ッ!」