居場所 作:NO.185 聖 水月さん 「・・・頼む・・・応えてくれ・・・」 床にうずくまるようにして座る少年が 自分の左腕に小指で文字を書く すぐに消えたそれに反応するものは無い 時間が経つ まだ無い・・・まだ・・・まだ・・・ 反応が返ってくるわけがないのだ なぜならこの方法で連絡を取れる唯一の相手は 数日前命を落としたのだから 数日前兄を亡くした武 俊角 青龍七星士角宿 左手首を握りそこに顔をうずめ 声を押し殺して泣く 兄の気が消えてから毎晩毎晩 こうしていつもの通信手段で言葉を送っていた しかしそのたびに反応はなく 絶望だけが募っていく 「・・・角宿・・・?」 不意にそこに少女の声が響く 「ゆ・・・唯様・・・!?」 慌てて涙をぬぐうが声は涙声のままだった 「・・・やっぱりまだ落ち着かないよね・・・ いいよ、辛いなら泣いて・・・ 誰にも言わないし、傍にいてほしいならいるし 一人になりたいなら部屋に戻るから・・・」 「い・・・いえ!!大丈夫です!! それより唯様はどうされたんですか?」 慌てて否定し、少年は少女 青龍の巫女本郷 唯に尋ねる 「・・・なんか、眠れなくてさ・・・ 明日から北甲国に行くでしょ? 角宿はこの国以外に行ったことある?」 部屋の中に入り角宿の横に座りながら 唯はそっと訊ねた 「いえ・・・ありませんけど・・・」 「あたしも・・・ あたしも青龍の巫女になってから この国以外に行くのって初めてだから・・・ ちょっと緊張してる」 「・・・? 巫女になる前は ほかの国に行かれたことあるんですか?」 「ん〜・・・・・・よく分からないけど・・・ きっと初めて来たときは紅南国だったんだと思う 美朱と二人で鬼宿に助けられたから・・・ ・・・あたし・・・きっとあのときから 鬼宿のこと好きだったんだと思う・・・」 角宿の肩がぴくっと震える きっと今時分はすごくいやな顔をしている それに・・・自分はこの前唯の愛する人物の家族を・・・ いや、あれは仇だったのだ 仇をとったのだ でもそれを告げたら唯はどんな顔をするだろう・・・ そう思って思わず顔をそむける 「そう・・・ですか・・・」 「うん、あ、それより角宿 亢宿ってどんな子?」 「え・・・?」 唐突な質問に角宿は驚くが 唯は言葉を重ねた 「ほらあたし直接会ってないでしょ? 角宿の双子のお兄さんで笛の名手・・・ それしか聞いてないからどんな子かな・・・って・・・ あ・・・ごめん・・・ちょっと前に亡くなったばっかりで・・・ こんな事聞くの無神け・・・」 「そんな事ないです!!」 首が飛んでしまうのではないかと思うほどの勢いで 角宿が大仰に首を振る そして語り始めた 「兄貴・・・いえ、兄は すごく優しくて穏やかな性格です オレ昔は体が弱かったんですけど そんなオレをいつも守ってくれて 助けてくれてました 苦しいときに笛で助けてくれたこともあるんですよ 戦うこともできるけど・・・自分から率先して戦う性格ではないです」 一気にそこまで話した角宿を唯はしばらく眺め 不意に静かに口を開いた 「角宿・・・やっぱりまだ受け入れられないんだね・・・ 亢宿のこと話してるとき現在形だもん」 「・・・・・・っ」 「でも・・・亢宿が死んでよかったとは言わないけど・・・ 亢宿はここに戻らなくて良かったのかも・・・」 「唯様・・・!?」 まるで唯の言葉が信じられないとでも言うように 角宿は瞠目した しかし唯の口から出た次の言葉は 角宿の予想をはるかに超えていた 「優しかったんでしょ? 戦えるけど率先して戦うことはない・・・ だったらここに亢宿の居場所はないよ 戦わなきゃいけないから 誰かの陰に隠れるなんてダメだから・・・ だからどこかで生きてても ここに戻らない方がいいのかもしれない」 「・・・・・・・・・・・・」 角宿は言葉を失った ・・・そうなのかもしれない・・・ 兄貴はここにはいないほうがいい・・・ 離れるのは辛いけど 兄貴の性格にここは合わない・・・ 「・・・あたしにも・・・本当は合わないのかもしれない・・・」 「・・・え・・・?」 自分の膝を抱え自嘲的な笑みを浮かべながら 唯はポツリポツリと言葉をつむいだ ![]() 「あたし・・・勉強以外何もできないから・・・ 誰かの役に立つなんて・・・ 世界を救う巫女なんて・・・ ・・・背負いきる自信・・・ないよ・・・ 美朱へのあてつけでこうなったけど・・・ 正直今後悔してる・・・ 亢宿が死んだのも・・・ もしかしたらあたしのせいかも・・・って・・・」 「そんな事ないですよ!!」 弱々しく語る唯を 角宿が励ますように力強く言う 「何もできないなんてそんな事ありません!! 今こうして唯さまが傍にいてくださって オレさっきよりずっと立ち直れました!! もし・・・唯様が自信ないって言うんなら オレが少しでも力を貸します ここが唯様の居場所になるように オレ・・・頑張りますから!! それに唯様は1人じゃないんで 背負いきれないなら俺も手伝いますよ!!」 思えばこの少女も『巫女』などと言う 大きな役目を背負っていても 自分と変わらない15歳 不安だって大きいはずだ 『七星士』という役目を背負っている自分は その真実を告げられたとき戸惑いはしたが 支えてくれる存在はいた しかしこの少女は・・・ 心の支えにしていたものに裏切られて・・・ しかも全く知らない異世界で・・・ 不安の大きさは自分の比ではないはずだ そう思い必死に言葉を重ねたが・・・ 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 しばらくどちらも黙り込み・・・ 「・・・くっ・・・アハハハッ」 突然唯が笑い出す 「ありがと角宿 なんか肩の力抜けた!! そうだねこっちに来て美朱に裏切られても まだ角宿がいたね それに心宿もこれから来るほかの七星士も・・・ だから大丈夫だよね ありがとう」 先ほどとは打って変わった笑顔で 唯に言われ角宿はドキマギしてしまう 「なんか気持ちがすっとした!! 何とか眠れそうだよ ホントにありがとね、おやすみ」 角宿の肩をぽんと叩き唯は立ち上がる 表情も仕草も先ほどより幾分明るくなっている 「おやすみなさい」 唯を見送りながら角宿は一言だけやっとそう言った ありがとうなんて・・・本当はオレが 礼を言わなくちゃいけないのに・・・ ・・・唯様のおかげで兄貴の傍以外にも こうして俺の居場所ができたのに・・・ 言いたい事の半分も言えなかった気がする でもこれからしたいことは見つかった それが嬉しくて角宿は心に誓いを立てた 唯様はオレが必ず守ります・・・と・・・ |