伝わる心、伝わらない想い
作:NO.198 深月さん



亢宿が張宿になりすまし、紅南国に来てから2日が経った。

今は昼、日差しがとても暖かかったので、亢宿は1人で外を眺めていた。
すると、

「っつ・・・」

突然腕に軽い痛みを感じた。
どうしたのかと自分の腕を見てみると、

−兄貴、上手くやってるか?−

と、亢宿の腕にはっきりと文字が書かれてあった。が、
次の瞬間その文字達はスッと消えた。
それは、亢宿の弟、角宿からのメッセージだったのだ。

「俊角?!」

亢宿は、

(俊角・・・「久しぶり」の挨拶くらいあったっていいのに。)

なんて思いながら、人気のない場所まで行き、

−こっちは大丈夫だ。しっかりやっているよ。−

と、爪で自分の腕に書き込み返事をした。
どうやら亢宿と角宿は、自分の体に文字を刻むことによって話が出来るようだ。
角宿は、挨拶するのを忘れるくらい亢宿を心配していたのだろう。
双子だけあって、亢宿を想う力は誰よりも強い。

−正体はバレてないか?−

−皆、僕を張宿だと信じているよ。心配ない。−

−そうか。それにしても単純だな朱雀七星士は。−

単純な角宿に、「単純」と言われる朱雀七星士。
亢宿は、吹き出しそうになった。

−おかげで楽に気を送れる。−

亢宿は、ここへ来たときから気づかれない様に少しずつ気を送っていたのだ。
朱雀七星士を殺すために・・・。

−そうだな・・・こうやって話していると、早く兄貴に会いたくなる。−

−僕だって・・・会いたい。−

「ん?「会いたい」?お前恋人いるのか?」

いきなり後ろから声がした。
亢宿はワッと驚き振り向くと、そこには朱雀七星士の鬼宿が立っていた。
その手にはいくらかのお金が握られていた。
たぶん街で稼いできたのだろう。

「たっ、鬼宿さん!・・・いえ恋人なんて・・・」

「え?じゃ「会いたい」って誰のことだよ。」

「あ・・・それは・・・」

(本当のことを言うべきか・・・いや、止めておこう。)

「そうです。恋人のことでした・・・」

亢宿は恥ずかしそうに声を小さくして言った。

「ハハッ。何だよそれ。恋人のこと忘れてたのか?俺は美朱を忘れたことなんて一度もないぜ。」

と、自慢げにフフンと笑った。そして、

「それじゃ、俺は金数えなきゃいけねぇから。じゃあな張宿。」

そう言って、自分の部屋へと駆けていった。

「はい。」

亢宿は鬼宿を見送りながらそっと呟いた。

「張宿?いや、僕は張宿じゃない。青龍七星士の亢宿。
あなたの敵なんですよ、鬼宿さん。」

それから心の中で思った。

(なのに、朱雀七星士達は僕を信じて疑おうとしない。僕が気を送っているのにも気がつかないで・・・)

亢宿は複雑な気持ちだった・・・。

鬼宿は、部屋に入ってから亢宿のおかしなところに気がついた。

「あれ?てか、何で張宿のやつ自分の腕に字なんか・・・まぁいいか。
さぁ!数えるぞ。今日稼いだ分を合わせていくらになるかな〜。」

今は、お金のことで頭がいっぱいなのだろう。鬼宿は、この疑問を再び思い出すことはなかった。

その頃、亢宿の腕にまた角宿からのメッセージが届いた。

−兄貴の笛の力だったら朱雀七星士なんて簡単に倒せる。そしたら兄貴は、こっちへ来れるんだよな。−

−うん。また昔みたいに一緒にいられる。−

−絶対に会えるよな。会えるって信じていいんだよな。じゃあ儀式が始まりそうになったら連絡くれよ。−

−わかった。−

そう返事をしてから亢宿は瞳を閉じた。

(俊角、お前の言ったとおり僕の力で朱雀七星士は簡単に倒せるかもしれない。
でも、最後に勝つのはきっと青龍じゃない。朱雀だ。僕たち青龍七星士がどんなに頑張っても、朱雀七星士には勝てないと思う。
青龍は人を殺すことしか考えられない。朱雀みたいに人を想う事が出来ないんだ。

青龍七星士・・・朱雀七星士・・・両方とも国を護る七星士だって事に変わりはない。
なのに、どうしてこんなにも考え方が違うのだろう。
僕は出来るのなら朱雀七星士に生まれてきたかった。もちろん、俊角も一緒に・・・)

「張宿ぉ!どこぉ!」

向こうの方で美朱が呼んでいる。

「はい。ここです美朱さん!」

(せめて青龍の巫女が美朱さんだったら・・・)

そう思いながら亢宿は朱雀の巫女、美朱の元へと駆けていった。

その日の夜、亢宿と角宿は同じ夢を見た。
亢宿は目の前で角宿が消えてしまう夢、角宿は亢宿を見失ってしまう夢。
そしてお互いの夢の中では、2人は二度と会うことはなかった。

朝起きると、この夢は2人の記憶に残ることなく消え去っていた。

[もうすぐ会えるんだよね・・・]

この願いが叶ったのは、今からずっと先のことだった。