角宿の生涯
原案:NO.078 琴乃サマ



 ドンッ!!!
 その時、オレの身体を、オレの操る武器である流星錘が貫いていた。
 頭上を飛び越えた鬼宿が地面に倒れるのと同時くらいに、オレもまた、地面に両膝をついていた。

 一瞬何が起こったのかわからなかった。
 身体の中からこみ上げてくる血の感じで、流星錘がオレの身体を貫いたのだとわかった。


 ゴホッ・・・


 血で口の中が鉄っぽい。思わず咽せて吐き出した。

 ・・・オレ・・・このまま死んでしまうのか・・・?

「・・・・・・・!」

 ふと、服の中からリボンが落ちた。
 唯様にもらったリボン。
 オレは・・・本当に・・・このまま死んでしまうのか?

「・・・・唯・・・様・・・」

 オレ・・・まだ唯様に・・・・それにアニキにも・・・・伝えていない。
 言わなくては。
 まだオレは死ぬわけにはいかないのに・・・!

「兄・・・・貴・・・・」

 ドサ・・・

 地面の感触は、冷たかった。







 西廊国の片隅にある摩汗村。
 今日も懐可の笛の音が聞こえてくる。

 ・・・それが、とまった。

「!!??」 笛を持ったまま懐可は立ち上がった。

「今・・・の・・気・・は・・・?」

 両親が不審そうに懐可を見つめる。

 ーーゴメンな・・・兄貴・・・。
  父さんと母さんが死んでから、俺の事育ててくれたのに・・・。
  ありがとうも・・言えないままで・・・。だから今言うよ・・・・。
  兄貴・・・・ありがとう・・・・・・・。

「ありがとう・・・?・・・・・!!! 角宿?!」

 懐可は何かを探すかのように、心配そうに見つめる両親にも気をとめず、そのまま家の外に走っていった。

「角宿だろ!!何処にいるんだ?!」
 懐可は空を仰いだ。

 必死で名前を呼ぶ。自分の半身・・・双子の弟の名を。
 懐可はその弟によって、忘却草という、人の記憶を操作する作用のある草の汁を飲まされて、今までの、
青龍七星士としての記憶をすべてなくしていた。

 それだけではない。
 飲まされたことも、口移しに飲まされた人物のことも覚えていない。
 すなわち、たったひとりの肉親、たったひとりの弟・角宿のことも覚えていなかった。
 また頭の中に声が聞こえてくる。

 ーーー兄貴・・俺の事・・思い出してくれたのか?
   ・・ありがとう・・。俺はそれだけで十分だよ・・・・・。

 ーーーさよなら・・・兄貴・・・
    さよなら・・・唯様・・・・・・






 青龍の巫女・唯は「彼」を捜していた。

 自分を守るが為に、ひとり現実の世界にやってきた七星士。
 彼は、敵の、また自分の親友でもある朱雀の巫女・美朱を追っていったまま、行方がわからなくなった。
 ただ巫女を守りたい一心で、彼が全く知らない世界で一生を終えることになるのを、唯はまだ知らない。

(大丈夫です、唯様。流星錘が巫女共を見つけてくれますから!)

 それが、彼の最後に聞いた言葉だった。

 ・・・歩けど歩けど、見つからない。

 一体、どこに行ってしまったの・・・角宿・・・・。


「・・・・!!」その時、唯は何かを感じた。「角宿?!」


 嫌な予感がする。
 この胸騒ぎはなに!?
 唯はあてもなく走り出した。なにか、手遅れになってしまった気がして。







 ーーー2人とも・・大好きだった・・・
    ありがとう・・・さよなら・・・・







「角宿・・・・・角宿〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!」
 懐可の叫びにも、それからは何も返答はなく。





「角宿っ!?何があったの?ねぇ!!答えてよ!!!」
 唯の必死の呼びかけにも、角宿からの反応はなかった。




 ーーー2人とも、幸せにな・・・・・・







  武 俊角 
   青龍七星士 角宿
     15年の一生を終えた・・・