僕が彼女と初めて出会ったのは、紅南国白江村ででした。
「彼女とその仲間の危機を僕が救う」という形での、
偶然でも運命でもなく、用意された出会い方・・・。
いわば作られた必然的な出会いでした。
そして僕は、予定どおり「彼女の仲間」という関係を築くことに成功しました。
でも本当は・・僕と彼女の関係は・・・決して相容れることのない、敵同士だったのです。


「張宿ーーーっ!!!」


「張宿」として。
彼女の仲間として。
・・・彼女をだまして。
それが僕には耐えられなくて。

そして、僕は一度死んだのでした。



* * * * * *



その日あたしは、かつて仲間だと信じていた人と再会した。


「懐可、得意な笛を聞かせておやり」


あたしは彼を信じていた。
でも彼はあたしの信用を裏切った。
彼はあたしの目の前で、川に落ちて・・・急流に飲まれて死んだ。
敵だとわかったあの時、あたしが、巫女であるあたしがみんなを止めなければいけなかったんだ。

それなのに、止められなかった。

片方をあたしが掴んでいた笛を、彼は自分から手を離して・・・。
最期、微笑んでいた彼の顔が脳裏から離れなかった。


「こんな平和な村で、いい人達と家族になって幸せそうにして、
ここに来る前あたし達に何したかも覚えてないなんて。
そのせいであたし達がどんなに大変だったか・・・なのに、忘れちゃうなんてー!!」


あの時と全然かわらない、あの時と同じ姿で。
それなのに、あたしのことは覚えていないなんて・・・。
覚えていないのに・・・あの時のままの姿なんて・・・!

青龍の間者だってわかった時もそうだった。
一体どこまでが本当のあなたなの?
あのやさしさもウソだったというの?
なんで私ばっかりが・・・。
なんであなたは、そういつまでもあたしのことを苦しめるの!?



* * * * * *



僕は・・・あの日、僕のしたことが、あなたをどんなに傷つけたか知っている。
だからこそ「亢宿」なんか忘れてほしかった。
それなのにあなたは「亢宿」を忘れてなんかいなかった。

・・・覚えててくれたこと。

嬉しかった。
でも、あの時のことを思えば、あのまま死んだと思ってくれていた方がどんなによかったか。
僕のことなんか全部忘れて、自分の本当の生きる道を進んでほしかった。
それなのに・・・。
また巡り会う運命だったのか?
そんなことなら、最初から出会わない方がよかった。
こんなに苦しい想いをするくらいなら−−!



* * * * * *



---“記憶喪失”---
あの「亢宿」は・・もういないんだ・・・。
でも、あたしのことは忘れちゃっても、生きててくれただけでいい。
生きててくれた。
それだけでよかったのかもしれない。
こんなあたしのことなんか忘れていいから、あの時のことを罪だと思っててほしくなかった。


「・・・ごめん、ごめんね八つ当たりして。・・・人違い・・・あなた「亢宿」じゃないよ・・・」


亢宿は・・・鬼宿が倶東国にいる間、あたしのこと気づかってくれた。
その笛で、そのやさしさで、あたしのこと癒してくれた。
この世界に来て、まわりは知らない人ばかり。
仲間たちは、確かにみんないい人ばかりだった。
でも、この世界に来て、初めて会った同い年の人。
あっちの世界では、絶対あたしのまわりにはいないような人。
同じ15歳。
なのにすごく落ち着いてて。
そばにいてくれるだけで、あたしは安心できた。
同年代だからなんとなく気が楽だった。

それなのに。

でも、そんな「亢宿」は・・もういないんだ。
ここにいるのは「亢宿」じゃない。
「亢宿」の姿をした「別の人間」・・・・。
あの「亢宿」は・・もういないんだから・・・。



* * * * * *



「・・・ええ覚えています、何もかも・・・。僕は青龍七星士。あなたの・・・敵だ」
「亢・・宿ー!」


------覚えていたの!?



本当は忘れてなんかいなかった。
・・・本当は忘れたくなかったんだ。
あなたを忘れるはず、ない・・・。

そう、出会わなきゃよかったなんて、間違ってた。
やっぱり、あなたに会えてよかった。
あなたに出会ったことによって受ける苦しみより、
あなたに出会えなかった方が苦しいに決まってる。
その優しさに、その汚れを知らない瞳に・・・僕がどれだけ救われたか。
だから、今度は僕があなたを救います。
あなたを必ず護ります。
たとえ、それが宿命の星を裏切ることになっても・・・。



* * * * * *



本当は最初から「亢宿」なんだって言いたかったんだ。
それなのに、忘れた「ふり」なんかしていて、
でも・・・あなたを苦しめていると知りながら、
それは、あまりにも大きな代償・・・
本当に「忘れて」しまうなんて。

「亢宿」という存在をあなたの中から消し去ってほしかった。
それなのに、逆に僕の記憶からあなたの存在が消えてしまった。

・・・ああ神様。
それが僕に与えられた罰なのでしょうか・・・。

------美朱さん・・・



コミック10巻のたかの流解釈。
どーやら私は懐可×美朱がスキみたいです(笑)
これは美朱は実は亢宿のことが好きだったという前提のもとにお読みください。
でないと、美朱はただのヤな女(フタマタ)になっちゃうので!
2人のすれ違う想いが伝わればいいのですが・・・。